もう少し「5ラインズ」について説明を加えたいと思います。
お気づきの通り、「5ラインズ」に位置づけたそれぞれのスキル自体は、目新しいものではありません。
むしろ、これまでに提示されてきたスキルの中から、日常的に様々な教科等の学習場面で取り組まれる対話で特に重要なスキルを抽出したものです。
これらのスキルを、「協同的に取り組む」「明確にする」「考えを支える」「比較し整理する」「対話を進める」といった大きな目的ごとに分類し、難易度をもとに中央から伸ばしていく形で配置したところに特長があります。
また、ライン間にも質的な差があります。
5本のラインの中でも、「協同的に取り組む」「明確にする」「考えを支える」の3本は特に重要なラインとされています*1。
「5ラインズ」を用いて対話指導をし始める際には、この3本に焦点化することをオススメしているほどです。
ただ、もしかしたら「考えを支える」ほどには「明確にする」に示したスキルの発言を子供たちの対話から聞くことはできないかもしれません。
でも、それはある意味、普通だと言えます。
というのも、「考えを支える」にある、理由を述べたり尋ねたりすることは、国語科の様々な場面(読む学習、書く学習)で指導されることが多いのではないでしょうか。
一方、「明確にする」に示したような、相手の言いたいことを確認したり、具体例を求めたりすることは対話指導で意識的に扱わない限り、多くの子たちは価値のあることだと考えていない可能性があります。
もちろん、友達の意見を自分の考えに生かそうとするならば、自然と「明確にする」に示した発言が出てくることもあるでしょう。しかし、残念ながら発表し合うように言われたから取り組んでいる状況では、これらの発言はほとんど出てきません。さらに言えば、高学年の子供たちでも、きちんと対話の指導がされていない場合は同様の状況に留まっていました。
では、この「5ラインズ」をどのように活用し、対話指導を進めていけばよいのでしょうか。
私が推奨しているのは、クラスの対話力の実態把握に活用するという方法です(=対話のアセスメント)。
そのためには、いくつかのポイントがあります。まとめると、以下のようになります。
○個人よりもクラスの傾向を捉えるようにする。
○時々できている、一部の子はやっているスキルを「伸びの芽」として注目する。
○できていないことではなく、できてきていることを発見していく。
○可能であれば、複数の教員で互いにアセスメントし合う機会を設ける。
でも、実際に取り組もうとしたら、ちょっと難しく感じてしまうかもしれません。
教員養成や現職教員研修でも、対話のアセスメントに取り組む機会はほとんど皆無に等しい状況ですから、慣れるまでは戸惑いがあって当然です。
あまり正確な評価をしようとせず、むしろ教員としての自分の耳を鍛えるつもりで取り組み続けてみてください。
実際に取り組んでくださった先生は、子供たちの対話に対する聞こえ方が大きく変わったと教えてくれました。*2
校内や組織で研修を企画する立場の先生であれば、持ち寄った対話の音声データを数人で聞き合うワークに取り組むこともオススメです。
なお、私たちは、下図のように、「5ラインズ」にマークしたり、マグネットをつけたりして、クラスの対話力を捉え、ターゲットスキルをはっきりさせてきました。
写真に撮る等して記録しておくと、子供たちの成長的変容を実感しやすくなります。
アセスメントを通してターゲットスキルを決めたら、日常的に子供たちの対話を聞くようにしましょう。
この段階になれば、対話の聞こえ方もずいぶん違って感じられるかもしれません。
そして、子供たちがターゲットスキルを用いて発言していたら、積極的に価値づけるとよいでしょう。
「さっき、A君がすごい対話の仕方をしていたんだけどね」
「おお、『○○ってこと?』って、確かめるワザを使えていたね!」
このように教師が価値づけることは、とても教育的な効果が大きいと言えます。
さらに、可能であれば、子供たちの発言の仕方を掲示してストックしていくと、どの子もマネして活用するようになります。
より積極的に育成を図る方法について知りたい方は、「「5ラインズ」の活用事例」のコーナーをお読みください。
*1 Zwiers 『学習会話を育む』
*2 日本国語教育学会紀要『月刊国語教育研究』第615号