討論と聞くと、ディベートのような自説の優位性を審判に向けて論じ合う言語活動や、相手を言い負かすことを目的とした論争的な議論を思い浮かべる人がいるかもしれません。私が志向する討論は、これらとは異なり、参加者間の立場や考えの違いを生かし、互いに考えを深め合うことを目的としています。そのためには、議論の中でも他の参加者への気配りも大切だと考えています(受け止めながら聞く、アサーティブな意見表出、全員の参加を促す等)。日常的なコミュニケーションで求められる様式と乖離することなく、様々な学習場面で活用されることが大切だと考えているからです。こういった考えのもと、他の討論と区別するために、私が志向する討論を「協同探究型討論」と名付け、実現するために求められる資質・能力の検討とカリキュラム開発に取り組んでいます。こういった討論の志向は、世界的にもCollaborative ArgumentationあるいはArgumentative Dialogueとして共通して重視されています。
こういった討論において求められる資質・能力の中でも、議論の推進と参加者間の調整を司るための〈議論展開能力〉の具体化とその育成方法の開発が急務であると私は考えています。論理的に意見を表出する力や批判的に聞く力も重要ですが、それらだけでは自律的かつ協同的に議論を進めることが難しいということは、多くの実践者に共感していただけるのではないかと思います。また、Argumentationの分野では、成果としての論証の評価に研究関心が偏りがちであったのが、ここ近年でプロセスとしての議論を充実させることへの関心が高まっていると言えます(=プロセスをブラックボックス化しない)。しかしながら、多くの研究では理由づけや根拠がどの程度出された・求められたか、反論を起点とした議論がどのように展開したか、ということばかりに着目されています。これらのはたらきかけ(moves)はもちろん重要なのですが、共に探究する関係を意識した関わりとしてはこれだけでは充分ではないと私は考えます。ある調査研究に拠れば、日本人学生のグループ討論では、「冗談」が他国の学生のグループより有意に多く観察されたのだそうです。これはまさに、全員の参加を促すために場を和ませるはたらきかけだと言えるでしょう。他にも、新たな論点として問いを投げかけることや議論の途中でいったん整理してみること等も、実際にface to faceの議論を通して考えを深め合う上で効果的なはたらきかけの一部だと言えます。
この〈議論展開能力〉は簡単に身に付くものではありませんので、小学校6年間を通した効果的な学びのありかたについて検討を進めています。